陳舜臣の『桃源亭へようこそ 中国料理店店主・陶展文の事件簿』を読了。
神戸で中国料理店を営む陶展文が活躍するシリーズの全短篇を収録した短篇集。最後の「幻の百花双瞳」だけはボーナストラックとして収められた、中国料理に纏わるノンシリーズ短篇である。
収録作品
「くたびれた縄」
「ひきずった縄」
「縄の繃帯」
「崩れた直線」
「軌跡は消えず」
「王直の財宝」
「幻の百花双瞳」
陳舜臣を読むのは初めてだったが、文章が軽やかで非常に読みやすかった。昭和の香り漂う雰囲気もgood。読んでみると伏線なども結構しっかりと張られていて謎解きミステリー的にも楽しめた。欲を言えば陶展文の料理人、憲法の達人、漢方医という設定を活かしたミステリーがあったらもっと良かった。編者もそこを考慮し、中国料理に纏わる「幻の百花双瞳」を収めたということだが、これが大変素晴らしい短篇であった。
冒頭に丁という男が取り調べを受けているシーンがあり、その後、この男の14歳からの物語が始まる。広州から日本の神戸に渡り、師匠の元で料理人として働き始める。丁は、師匠が店主の「昔食べた百花双瞳もう一度食べたい」という言葉に執念を燃やし、ひたすら百花餡を使った点心を作り続けていることを知る。
幻の百花双瞳にはどんな食材が使われていたのか、冒頭で丁は何故取り調べを受けていたのか、料理に纏わるミステリーとして楽しめたし、真相に至るまでのストーリー展開がなんとも素晴らしい。この短篇を収録してくれたことに感謝。
「幻の百花双瞳」があまりに良かったので陶展文シリーズの感想がおざなりになってしまったが、こちらも面白かったことは間違いないので、シリーズ長篇である『枯草の根』『三色の家』『割れる』『虹の舞台』の方も読んでみたい。