積ん読崩しの日々

ミステリ・SF・ホラーを中心に

『アンソロジー 料理をつくる人』(創元文芸文庫)

収録作品

西條奈加「向日葵の少女」

千早茜「白い食卓」

深緑野分「メインディッシュを悪魔に」

秋永真琴「冷蔵庫で待ってる」

織守きょうや「対岸の恋」

越谷オサム「夏のキッチン」

 

 料理そのものではなく料理を作る人をテーマにしたアンソロジー東京創元社では紙魚の手帖の特集をアンソロジーという形で刊行する場合があるのだが、今回「料理をつくる人」特集が文庫となって刊行された。これはとても楽しみにしていた本で、というのも、書評家の杉江松恋氏のYou tube番組「短いのが好き」のコーナーで、本書に収められている「夏のキッチン」が紹介されていて、これがとても面白そうだったのだ。実際読んでみると、粒ぞろいですべて面白かった。以下、特に印象に残った作品。

 「向日葵の少女」は〈お蔦さんの神楽坂日記〉シリーズの一篇。実はこのシリーズ、『無花果の実のなるころに』を10年以上前に読んでおり、正直その時はあまり印象に残っていなかった。だが今回久しぶりに読んでみると、ほっこりするキャラクターたちと、望が作るおいしそうな料理の描写が素晴らしいミステリとして楽しめた。調べると『無花果~』以降3作品が刊行されている人気シリーズとなっているようだ。こういう日常の謎がテーマのミステリは、社会人になってから心の癒しとして手に取る頻度が高くなっているので、このシリーズは再び読んでみようかなと思った。

 「メインディッシュを悪魔に」は、ニューヨークのマンハッタン島でレストランを営むジュリエットというシェフが主人公。ある日突然サタンの前に連れていかれ、「退屈しのぎに自分が満足する料理を作れ。合格しなければひどい目に遭わせる」と言われる。設定が面白いだけでなく、最後は結構心に沁みる良いストーリーだった。

 「夏のキッチン」は、ある夏の午後、小学6年生の男の子がおなかがすいてしまったためにカレーを作ろうとするお話。しかしこの家では子供だけで包丁を使ってはいけないというルールがあり、どうやって材料を切るのかといった子供ならではの考え方や、初めて料理を作るときのワクワク感やドキドキ感がほほえましく面白い。ここまでが前半で、後半になると前半に仕掛けられていた伏線が回収され、ちょっとした驚きもあってとても素晴らしい家族小説だった。越谷さんの作品もだいぶ久しぶりに読んだが、いずれまた読んでおきたい。

 

★本を買った。

横田創『埋葬』(中公文庫)