収録作品
江國香織「下北沢の昼下り」
三浦しをん「夢見る家族」
乙一「AI Detective 探偵をインストールしました」
澤西祐典「貝殻人間」
山田詠美「ジョン&ジェーン」
小川哲「猪田って誰?」
荻原浩「ああ美しき忖度の村」
原田ひ香「夏のカレー」
武石勝義「煙景の彼方」
普段はミステリーやホラー小説ばかりを選んで読んでるが、たまには文芸作品を読みたくなる。そんな時にぴったりなのがこのようなアンソロジーだ。本書は2023年にあらゆる文芸誌に発表された短篇小説の中から、日本文藝家協会の編纂委員の方たちが「これは」といって編まれたアンソロジーだ。
「AI Detective 探偵をインストールしました」はミステリー、「貝殻人間」「煙景の彼方」は幻想要素を含んだ物語として非常に好みの作品だった。ほかも新鮮でしみじみと味わい深い作品が多く、どの短篇も面白かった。
「猪田って誰?」は「猪田の告別式、どうする?」というLINEが届くが、「俺」は猪田が誰なのか思い出せないという話。同級生たちとのやり取りで徐々に情報を仕入れるが、それでも猪田が誰なのか分からない。同時に妻に対する心の中の不満のツッコミを絡めながら、一向に思い出せない「俺」の苦悶が可笑しくも恐ろしい。
「夏のカレー」も良かった。葬儀から帰宅すると冴子が待っていた。冴子は20歳で初めて出会い、別れと再会を繰り返した女性で、お互いに愛し合っていたのに何故か結婚しないまま60歳を迎えていた。2人は冴子の作ったカレーを食べながら、今までの人生を振り返ってゆく。意外な結末に驚いた。