積ん読崩しの日々

ミステリ・SF・ホラーを中心に

日本文藝家協会/編『夏のカレー 現代の短篇小説ベストコレクション2024』(文春文庫)

収録作品

江國香織「下北沢の昼下り」

三浦しをん「夢見る家族」

乙一「AI Detective 探偵をインストールしました」

澤西祐典「貝殻人間」

山田詠美「ジョン&ジェーン」

小川哲「猪田って誰?」

中島京子シスターフッド鼠坂

荻原浩「ああ美しき忖度の村」

原田ひ香「夏のカレー」

宮島未奈ガラケーレクイエム」

武石勝義「煙景の彼方」

 

 普段はミステリーやホラー小説ばかりを選んで読んでるが、たまには文芸作品を読みたくなる。そんな時にぴったりなのがこのようなアンソロジーだ。本書は2023年にあらゆる文芸誌に発表された短篇小説の中から、日本文藝家協会の編纂委員の方たちが「これは」といって編まれたアンソロジーだ。

 「AI Detective 探偵をインストールしました」はミステリー、「貝殻人間」「煙景の彼方」は幻想要素を含んだ物語として非常に好みの作品だった。ほかも新鮮でしみじみと味わい深い作品が多く、どの短篇も面白かった。

 「猪田って誰?」は「猪田の告別式、どうする?」というLINEが届くが、「俺」は猪田が誰なのか思い出せないという話。同級生たちとのやり取りで徐々に情報を仕入れるが、それでも猪田が誰なのか分からない。同時に妻に対する心の中の不満のツッコミを絡めながら、一向に思い出せない「俺」の苦悶が可笑しくも恐ろしい。

 「夏のカレー」も良かった。葬儀から帰宅すると冴子が待っていた。冴子は20歳で初めて出会い、別れと再会を繰り返した女性で、お互いに愛し合っていたのに何故か結婚しないまま60歳を迎えていた。2人は冴子の作ったカレーを食べながら、今までの人生を振り返ってゆく。意外な結末に驚いた。