積ん読崩しの日々

ミステリ・SF・ホラーを中心に

浅倉秋成『まず良識をみじん切りにします』(光文社)

収録作品

「そうだ、デスゲームを作ろう」

「行列のできるクロワッサン」

「花嫁がもどらない」

「ファーストが裏切った」

「完全なる命名

 

 表紙デザインとタイトルに惹かれて読み始めたところ、一話目から今まで読んだことのない魅力があり一気にハマり込んだ。どれも奇妙な設定で「世にも奇妙な物語」で採用されそうな話であった。

「そうだ、デスゲームを作ろう」:取引先の発注担当者から理不尽な扱いを受け続けた主人公が、デスゲームによって相手を殺すことを決める。この話の特徴はデスゲームの様子ではなく、デスゲームを行うための準備を描いたところにある。デスゲームの舞台にふさわしい場所や舞台を作り上げるための交通手段、材料の調達、それらにかかる費用などを事細かに描かれていて面白い。

「行列のできるクロワッサン」:知らぬ間に開店したクロワッサン専門店にできた行列が日を追うごとに長くなり、はじめは気にしていなかった主人公だが、この行列によって人生が翻弄される話。日本人の性質をネガティブな方向に誇張した展開、結末が恐ろしい。

「花嫁がもどらない」:結婚式の二次会で突然「気持ち悪い」と言い残した花嫁が部屋に閉じこもってしまい、招待客たちが何が気持ち悪かったのかを議論する話。他人に向けられる無意識な悪意が肥大化して、イヤ~な展開が味わえる。

「ファーストが裏切った」:ファーストの守備に就いていた選手が試合中、突然裏切り行為を続けるようになった話。読後、その気持ちわからないでもないという気持になった。ああいった衝動を○○が割れたと表現したのが巧いと思った。

「完全なる命名」:本書の中で一番好きで一番笑った話。まもなく産まれてくる子どもの名前についてひたすら悩み続ける話。主人公には妄想癖があり、いつの間にか妄想の世界に入り込んでいくのだが、それがどれもバッドエンドを迎えるのが恐ろしいのだが、読んでいる方としてはどうにも笑ってしまう。オチも笑った。

 

★本が届いた

寝舟はやせ『入居条件:隣に住んでる友人と必ず仲良くしてください』(KADOKAWA)

ヘレン・ライリー『欲得ずくの殺人』(論創海外ミステリ)

 近年、国内ホラー小説の充実度には目を瞠るものがある。